刑事王女 下





*****



おとなしく病院にすっこんでいないと首を言葉どうりしてやるとの脅かしに折れず、先輩が署に戻った次の日に退院した俺は、果たせなかった事を果たす為にあの屋敷に向かった。この事件は、必ず俺が解決して見せる。

「警察署の者ですが」
「…」

俺の訪れに少なからず驚いたよう、金髪の少女は二階の階段から腕を組んで俺を見下げていた。黒いドレスに頭の上にはティアラ。なんじゃありゃ?コスプレが趣味なお金持ちのお嬢様か何かか?まったく、最近の子供達ときたら。

「で、ここを訪ねた要件について聞かせて欲しいですが」
「あぁ、そうだ。君…親御さんは居らっしゃらないのかな?」
「…」
「実は…この屋敷について妙な噂を聞いてね…」
「…」
「あ、怖がる事はないさ。近所の人から話を聞いて、俺が事情の調べ役を任されたんだ。ま、あくまで形だからね。そうだな…まずは君の名前を教えてくれないかな。そして親御さんのお名前も…今は外出中?」

少女は俺ではなく俺の後ろにある何かを見て首を横に振った。一瞬見返したが部屋の扉は閉じられていて、そこにはなにもいなかった。

「…まったく」

少女が溜息を付くような気がして見ると、彼女はどこか不満そうに俺を見つめていた。

「その、ワリィ。こっちもこれが仕事でね。いきなり訪ねてきて迷惑なのは分かるけど、すぐ終わるから。君の親御さんと合わせてもらえばこちらで処理する。今いらっしゃらなかったら連絡先を教えてもらえないかな?」
「ない」
「は?」
「お前に教える連絡先などない」

なんかさっきと雰囲気違くないか?さっきまでちゃんと敬語使ってったろ?あ、なんかむかついたのか。怒ると大人に対し敬語省略とはまったく最近の子どもたちは…。きっとお金持ちの子だからって甘やかすばかりしてたろう。

「その、もうすぐ終わらせるから、な?実は近所の人からこの付近で妙な音が聞こえるって話があったんだ。ま、何もないならそうと伝えるから」
「寄越せ」
「は?」
「その人の連絡先を寄越すが良い」
「な、何言ってるんだ。個人のプライバシーをそうあっさり渡すわけには…」
「無断境界侵入。この界隈は私所有の土地だ。個人のプライバシーをそうあっさりと侵害してもよいのか?」
「そ、それは、その…」
「ま、按ずるな。その人の連絡先を寄越せばお前の上にはこちらから上手く伝えておこう」
「ちょっと、君、言葉使いが…」

そこでまた、記憶が切られた。



*****



「おい、真栄田。今日俺ら現場勤務だけど、クーラー直しに来るって言ってたから留守は頼んだぞ」
「はい、ボース」
「誰がボースだこのヤロ!カン!」
「口で効果音やめてくださいってば!」

誰もいない署でしばらくの間自由の身になった俺は、椅子に腰を下ろし、机の上に足を置いて社長のポーズをしてみた。ま、すぐやめちゃったが。
先輩の席の机に置いてあったエロDVDを感想していた俺は、昼間から公務員のする事がないのに気づき、本業に励むようにした。
ふと思い出して、ポケットの録音機を取り出す。そういえばあのおばさん、最近は特になにもなかったな。つい何日前でも一日に三回ぐらいは電話があったが…。特にする事もなかったので俺は録音機を起動し、事件の取り調べの時に備え、些細な事も聞き逃さない刑事の既述を鍛える事にした。パチパチと騒音がして小型レコーダーが策動する。初めともらった給料日をほとんど使って買った612MBのやつだ。いまじゃあの時払った金額で20GBは買えるそうだが、長い間これが手になづけられてあまり替える気がしない。
騒音が思ったより長い。録音する前からセットされていたのか?特にそんな記憶はないが…録音機に触れようとしたら、そこからなんか聞こえ覚えのない声が流れてきた。

『行って来ました、姫様。あの人の者達は無事催眠させてもらいわしたわ』
『お前、あの家にはどうやって入ったんだ?』
『私とコウモリ達の情報をなめないでくださる?連絡先さえ分かればその程度の処理は簡単ですわ』
『では、これでもう請願が入る事はないな』
『はい、姫様』
『それにしても、ココらへんは全部こっちの縄張りなはずなんだけど、そんなによく聞こえるのか?人狼でもあるまいし』
『夜になると静かになるから、耳のいいおばあさんが寝そびれたのかも』
『でもよ、そんなふうだったら請願って一つや二つってところじゃねぇよな』
『あら、請願はもともと一日に数万件は入ってくるものなのよ?雌犬はそんな事も知らなかったの?』
『その数万件もする請願の中でなんでよりによってこっちに直接来るんだよ!わけわかんねぇ』
『そうですわね、まったく変わった人もありますわ。私の催眠術が効かないなんて』
『ところで初日はともかく二日目にはなんであんな芝居やったんだ?ヒロに変な格好やらせてやつ』
『それは…』

612MBの録音機はそこで再生が止まった。俺はそのまま署を飛び出し、近くのショップに入り適当に大容量の録音機を購入した。財布がじゃんねんな状態だったので、母上が作ってくれたクレジットカドを使った。来月は飯抜きだな。だが今はそんなのはどうでもいい!

「警察のものです。少し時間をいただけないかな、コスプレ少女よ」
「・・・入るがよい」

俺は赤いカーペットが張られた階段を登り、案内された部屋に入るなり小さいし四角形のテーブルの前に座っている少女に録音機の内容を再生してくれた。

『行って来ました、姫様。あの人の者達は無事催眠させてもらいわしたわ』
『お前、あの家にはどうやって入ったんだ?』
『私とコウモリ達の情報をなめないでくださる?連絡先さえわかればその程度の処理は簡単ですわ』
『では、これでもう請願が入る事はないな』
『はい、姫様』

そこで一旦静止して、俺は少女の表情を見た。彼女はなんの感情も見せずむしろこっちを見つめていた。どこか違和感のする赤い瞳が俺を見ぬいていましそうだ。一体、この違和感の正体はなんなのか。

『その数万件もする請願の中でよりによってこっちに直接来るんだよ!わけわかんねぇ』

「…」
「なんで数万件もする請願の中でわざわざこれだけこだわったのかと言うと、これが俺が刑事になって初めて努められた事件だからだよ、運が悪いね、コスプレお嬢さん。俺はドラマで見る些細な事に拘る正義の刑事なんだ」
「ふふん」
「まだある」

『そうですわね、まったく変わった人もありますわ。私の催眠術が効かないなんて』

「催眠術ってなんだ?占いみたいな物なのか?俺は幽霊やお化けも見れるんだ。催眠術って言うのも俺には超ありだぞ。君は催眠術者と交際しているのか?」
「そうとも言えるな」
「コウモリがどうとか言ったようだが、催眠術にコウモリが必要なのか?」
「私にもよく分からないが、そのようだ」
「今あの催眠術者に会えるか?君と同じ屋敷に住んでるみたいだし」
「じゃんねんだが、あやつは普段勝手に振る舞うのでな、お前に合うと言うかどうかは分からぬ」
「大人をナメるんじゃない。俺に二度も催眠術を使ったな。生憎だが俺はもうそう簡単にやられないぞ」
「二度…?」
「さぁ、答えてもらおぞ。催眠術者まで動員して、請願を中止させるまで隠したい事ってなんだ?」
「お前に答える義務はない」
「大人をナメるんじゃないって、さっき言ったばかりだぞ」
「お前に答える義務はない。たかが一介の公務員。国に雇われた見であろう。違うか?」
「は?税金も出せない未成年にそんな理不尽な…」

携帯のベールが鳴らんだ。いやな予感がする。俺は携帯と少女の顔を見た。

「携帯が鳴らってるが?」
「わ、分かってる」

そこ動くなとばかりに少女に目で言いつけては、携帯に出る。ごっくんとかたずを飲み込んだ。

「もしもし、あ、はいっ!はい…はい?」

俺は驚いて携帯を耳から外してテーブルの前で優雅にお茶を飲んでいる少女を見た。俺と目が合うと軽く口を開いて笑う。その時俺は初めて、お化けや幽霊より怖いものを見てしまった。…牙。

「急用ができたなら帰っても良いんだぞ?」
「お前…一体何者なんだ?」

震える声で聞くと、この世の存在じゃないーまるで血のように赤い瞳のー少女がもう一度牙を見せながら笑った。

「私は姫。怪物と呼ばれる、すべて異形の上に君臨する、王の娘だ」



*****


「やっと落ち着いたか。これで久々にドライブ行けるようになったな」
「私も思う存分夜の散歩が楽しめますわ」
「おい、せっかくだからお前も付き合うか?後ろに立てて」
「延陵しておこう。だが、車のドライブならいいかもしれぬ」

そうして、いつかのように僕達四人は姫の車で仲良くドライブに行く事になった。リザは最小はスピードを出せなくて不満そうだったけど、それも最初の少しだけですぐ何も言わなくなった。皆ここ最近疲れが溜まったのか久しぶりに取り戻した平和を満喫した。

「疲れたぁ。怪物と戦うより人間相手するのがこんなに疲れるとはね」
「同感ですわ。それになんとしつこい。催眠術も効かない、お化け屋作戦も通じない、なんて馬鹿な奴なの?」
「あの蜘蛛女の芝居が下手だったろう。最初からちゃんと脅かせたらこんな苦労はしてない済んだろうに」
「そもそも幽霊やお化けを否定しないタイプなんだから、そんな人間には相手するより無駄ですわ。大体請願だけでそう拘るなんてありえないですわ」
「たしか請願がきっかけだったがもしれぬが、動機は別にあったのかもな」

姫の話に皆彼女に注目した。姫は後ろの席でずっと組んでいた腕を解いて指をさしながら説明を始めた。

「令裡の話によると、あの請願は屋敷から悲鳴とチェーンソーの音が聞こたのが原因だそうだ。ならば、普段なんだかの事件として見受けて捜査するはず」
「でも今までこんな事なかったろ?」
「あの刑事がイレギュラーなのだ。普段あのぐらいの短編的な情報だけを持って実際捜査に着手する事はまずない。彼らとてそう暇ではないからな」
「今度はすげー暇な奴ばかり採用したみたいだな」
「いくらなんでも警視庁の資料まで捜査する気はしなかったので辞めましたが、だいたい心当たりはありますわ」
「ああ」
「何だ?」

姫は腕を組んでバクミーラを見て言った。

「ヒロだ」


*****


『君の赴任所が変わった。明日そちらに書信を送るので引き継ぎは省略してすぐそちらへ行くのだな』
「ちょっと待ってください、警部。そう何週間で赴任所が変わるなんて…」
『ここ何週間、君の評価報告書を読ませてもらった。君は笹鳴町には似合わないそうだな。もっとゆっくりした田舎がよさそうだ。そこでは請願を一々拘る事もできるからな』
「ちょっと、警部!」
『では、失礼する』
「警部!」


*****


「多分あやつは、事件のファイルを閲覧し笹鳴総合病院事件について知ってしまったのだろう」
「何だ、そりゃ?」
「ヒロが交通事故に遭い、運ばれた事だ」
「?」
「霊安室に運ばれたヒロに私が血を与え、その晩ヒロは自分の足で屋敷にやって来た。後は解るな?」
「いや、全然」
「馬鹿な雌犬が、死んで霊安室にいたはずの人が歩いて病院を出たんですよ?死体がいなくなったと騒いだ事でしょう」
「あぁ、そういう事か」
「あそこが例の吸血鬼が支配している所とはいえ、どうやら交通事故の事が新聞の記事に載せられた事までは制御できなかったのであろう。ヒロについて分かったのもその事件の以来のはずだからな」
「じゃ、あの刑事はその記事だけを見てここまで来たのか。ある意味すげーな?」
「ふふん、そうかもな」
「ま、ネットで上での都市伝説とかもありますし、そればかりは吸血鬼も無理ですわ。もっとも、王国ぐらいならそうとも限りませんが。ふふっ♡」
「で、あの2日目の芝居はまだ分からねぇな。ヒロに変な格好させた奴。もういい加減教えろよ」

顔が赤くなった。すぐそばにいるリザを見ると彼女は運転台を掴んだまま姫の方を振り向いた。僕は直接振り向くのはなんだか恥ずかしくてバクミーラで覗くと、姫はいつも通りの顔をしていた。

「いや、あれはただの気まぐれだったが」
「はぁ?」
「姫様、そういうご趣味が…」
「実はあれで奴に記憶の混乱を起こらせ、なかった事にするつもりだった。なのに最後にナクアに記憶を消されるとはな」
「あの蜘蛛女、自分の事お化けと言った事によっぽど腹が立っていたようだったな」
「初めからそういう役だったからしょうが無いでしょうにね」
「お菓子につられてしたんだけどやっぱりむかついたのかもな」
「そういえば…」
「何だ?」
「あやつ、二度…と言ったな」
「何だそりゃ、じゃ一回は催眠が利いたっていうのか?」
「それはないわ。だって私が催眠をさせたのは最初の一回だけですが、あの時利いたならそれ以上屋敷には来なかったはずですわ。二回目はあの蜘蛛女がいきなり襲って来たのだし」
「じゃ、最後のは誰がやったんだ?」

リザがバクミーラで姫を見ると、姫は目を大きくして自分は何も知らないとばかりに僕達を見た。令裡さんを見ると彼女も同じだった。

「なんだ、姫サマが令裡になんかさせて気絶したんじゃなかつたっけ?」
「いや、あれはかってに気絶したのだ」
「はぁ?」
「私も見ましたわ。大体雌犬は門の外でずっと一緒だったじゃありません」
「いや、別にお前の事ばかり見ていたんじゃあるまいし、コウモリに変身して行けば知るかよ」
「だから、私はありませんわ」
「じゃ、何だ。またナクアか?あいつけっこう根に持つタイプだな」
「あのう…」

皆話してる中に、僕は姫の車に乗って初めて口を利いた。皆の視線が僕に集中する事を見て躊躇したけど、後ろ席にいる姫を見て話した。

「実は僕、見たんだ」

何を?と聞かず、姫は目をまじろきしながら僕をじっと見つめた。

「最後に刑事さんが来た時、本当に幽霊がいたんだ。その幽霊が刑事さんにチョップを入れて…それで…」
「は?」

隣にいたリザが愕然としたように僕を見た。令裡さんは信じるべきか悩むように姫の顔をみた。姫は軽く溜息を付いて窓側を見ながら話した。

「とにかく過ぎた事だ。遠くへ左遷させたのだからもうあのマヌケな顔を見なくて済むであろう」

姫がそう言うと、凍りついた車の中の空気が穏やかになった。

それから何ヶ月後。

「…」
「通りすがりに寄ったんだ。どうだ、親御さんは元気か?」
「…おい、おっさん」
「あれ?君は初めて見るな…あのコスプレお嬢さんの姉か?それとも妹?いや、全然似てないけど。髪の毛の色とか」
「誰が姉妹だ!あんた、なんでまたここにいるんだ?」
「たまたま寄っただでだからって。あ、これコスプレお嬢さんに伝えてくれないかな」
「コス…何?何だこれは」
「俺の名刺だよ」
「私立探偵…真栄田一郎!?」
「どうやら公務員は俺向きじゃない気がしてな。やっぱドラマチックな職業なら私立探偵だ。もうすぐ事務所を開く事になってるんだけど、良かったらコスプレお嬢さんと一緒に来てくれ」
「ちょっと、何親しく招待するんだ。行くはずねぇだろう」
「すぐこの丘の下にあるんだ。この屋敷は不吉な事件によく巻き込まれるようだから俺が力になってあげられるんじゃないかなって。このくらい広い屋敷を所有してるなら親御さんもかなりのお金持ちだろう?娘の安全の為にセキュリティにももっと投資したほうが…そう、仮に俺が専用探偵になってあげてもいいんだぞ?」
「ひ、姫。あの人さっきから玄関の前でずっとあれだよ」
「…放っておけ」

姫はそう言って不満そうな顔をした。リザはしばらく刑事さん…いや、探偵さんに相手されてから名刺を持って姫の部屋に上がってきた。

「『宜しく頼む』だってよ」
「・・・まったく、しつこいやつだ」

姫は要らないとばかりにフランドルに名刺を渡した。

「自ら危ない事に足を踏みたがるとは…理解に苦しむ」
「ふが」

姫はうんざりしたよう、しかし密かに笑っていた。

「ま、なれるようになる」

フランドルが注げてくれるアールグレイを飲んで、彼女はそう言った。



〈刑事王女 〉


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