刑事王女 上 괴물왕녀






俺の名は真栄田一郎。32歳。刑事である。
ちょうど二週間前にここ笹鳴町に赴任された。刑事って言っても新入りで先輩達のタバコ買いにコンビニを出入りしたり、事件が載せられた新聞の記事を切り取ってスクラップしたり、事件のファイルを纏める雑用が主だけど。

「今日も暑いな」

請願の事情取り調べの帰りに、暑苦しくなった俺は、カフェに寄りアイスコーヒーを注文した。俺の席の向こう側に、なぜかメイド服を着た女性がパフェを食っていた。ここの店員がちょうど休憩中なのか。それにしてもパフェが大好きそうだな、みたいな事を考えながら、普段から人を観察するのが癖だった俺は女性の胸が想像以上にデカかった事に驚いて、彼女がお会計をしてお店を出る事にまた驚いた。この店の店員じゃなかったのか…。女性の胸は本当デカくて、一度見たら絶対に忘れられないおっぱいだった。

「何へらへらして来やがるんだ?暑気あたりか?」

先輩の面積にふと気づくと、俺はいつの間にか署に着きていた。…それにしても暑い。壊れたクーラーは一週間が経ったというのに未だに直しに来てくれない。何度か抗議の電話をしたものの、お客がいっぱいで無理だと言う返事しか帰って来なかった。まぁ、どうせ安いモンだししょうがないか。諦めてシャーツのボタンを四個までに解いて椅子にあった座布団を投げ出し、体を乗せる。

『それがね、丘の上の屋敷らしいわよ。夜々チェーンソーの音みたいのが響いて、気味の悪い悲鳴かなんだか判らない音までして、家は子供が二人なのに怖くて夜眠れないわ』
『幽霊の館とか何とか噂になってるみたいだけど、刑事さんがちょっと調べて来て欲しいですわ。そのための公務員でしょう?市民を守るのが刑事さんの努めでしょう?』

「おい、真栄田、そんなのファイル作らなくてもいいよ」
「は?」
「そりゃあのおばさんがしつこいからお前に直接行って来いと言ったまでよ。適当に話聞いてくれるフリして、頑張ってます、て言って帰ればいいさ。何もファイルまでする事ナィって」
「でも請願がよく入るなら、実際何か措置をしなきゃマズイんじゃないんすか?」
「あ、そうか。この際お前も知っておけよ。あの丘の上の屋敷はな…」


*****


(とにかくそこを調べるには、警視庁の幹部くらいになってから考えるんだな。多分幹部になったらそっちの事でこんな事には気を使う暇もなくなるだろうけど…ま、とにかくこれはお前には無理だ。俺もそうだしな。別にお前が新入りで無能だからとかそういう問題じゃなくて、単にあっちが触れられない禁断の領域みたいなもんなのさ)

俺が買ってきたタバコを、俺のライターで美味しく吸いながら、俺の顔に雲の煙気を持ち悪く吹く先輩にそんな事を言われた後、俺はあの丘の上の屋敷に着いた。署で調べた住所によるとここに間違いないはずだが…正直その幅広い面積がこの屋敷の主人の私有地だなんて信じられない。もしそれが本当なら俺はここに足を踏んだ事だけで不法侵入になる。

「ふっ」

それがどうした。俺は笹鳴町の刑事前田一郎。恐れるモノなどない!ファイルで観たこの屋敷の主人については不審な点が多い。先輩達はこんなものを調べず何を調べるというのか!潜伏調査は刑事のロマンだというのに!

「ふが」
「何だ、あやつは?」
「ふが?」
「いや、放っておけ。直に引き上がるだろう」
「放っておくのかよ。そんなんじゃ外に出られないじゃん」
「私はは外出する事がないので構わぬ」
「あたしは構うって!バイクでドライブ行く予定だったんだ!」
「ふが」

とにかくドラマで観たどうりペコパンと牛乳を買ってきたのだから、腹いっぱいして潜伏をするのみだな。録音機のバッテリーの充電もバッチリだし、これで夜事が起きるのを待つだけか。

「姉さん、帰りに見知らないおじさんが電柱にもたれ寝ていたんだけど、事故にでも遭ってるのかな?警察に連絡した方がいいんじゃないかな」
「あ、あの人ね。ホームレスか何かないかしら。少しだけどお小遣いあげたけど」
「そ、それ姉さんだったの?」
「それよりヒロ、お嬢様が呼んでたわよ?」
「あ、うん」




刑事王女



「はっ!」

耳元で唸り続く蚊の音に驚いて目を覚ますと、俺は冷たいセメントの上で電柱にもたれ眠っていた。馬鹿な…なんという事だ…。そして足元に落ちているコイン…俺のポケットから落ちたのかと思って拾い上げたが、考えてみりゃ俺はこんな綺麗な五百円のやつを持っていた覚えはない…そもそも小勢は持っているのも面倒くさくて小勢ができると必ず飲み物やガムなどを買って使ってしまうんだが…これが足元にあったいう事は…物乞いされた!?
あまりの恥ずかしに呼吸が乱れ、冷や汗まで出てきた。小学の頃好きだった女子に告ろうとしたら彼女の背後に現れた幽霊を見て驚いたあまりにズボンに失礼をして全校の笑いものになった事があるんだが、その後恥ずかしくなるとこうなってしまう。持病って言えるのかな。別にか弱い美少年のドラマちっくなやつじゃないが。

「そんな事より…」

今、悲鳴とか聞こえなかったけ?慌ててポケットに入れておいた懐中電灯を出し光を薄くして屋敷の方に向けると、中から影が動いた。髪の長い女の人が長い棒みたいなものを何度も下に向いて叩いていた。あのおっぱい…どこかで見たような…。

「どうした?」
「あら、お嬢様。掃除したら虫がいて…」
「虫くらいでお前が悲鳴を上げるとは珍しいな」
「いいえ、悲鳴は私ではなく…」
「お前だったのか?」
「な、なんか悪いのか。ゴキブリはどうも気持ちわるいんだよ」
「ま、どうでもいいが。ただ、誇り高い人狼がゴキブリに…」
「う、うつるせぇ!」

あの印象的なおっぱい…どこかで見た覚えがある…どこだっけ…。俺が悩んでる間に悲鳴も凶器を振るような影も消え、やがて屋敷は沈黙に落ちた。

「…」

…足いてぇ!
何も起こりやしない。やっぱりただの噂だったのか?いや、ちょうど俺が監視しに来たのに気づいて警戒の為に静かに息を潜めて隠れているのかも知れない。だが潜伏捜査をナメるな!何日も何月も監視してやる!そう思いつつ、俺は目覚めのガムを口に入れて潜伏捜査を再開した。


*****



「行ってきます」
「よう、ヒロ。丘の下まで送ってやろうか? 後ろに立ってて」
「い、いや、いいんだ。僕は歩いても時間あるし」

(リザってスピード上げすぎて怖いんだよな…)

「そうか。じゃいってこいよ」
「うん。リザもね」
「おう」
「はぁあんー。昨夜は変な人が屋敷の前でウロウロして夜の散歩も行けませんでしたわ」
「あれ?この人昨日姉さんが言ってたホームレスさんかな?まだいたんだね」
「ただの酔っ払い者ではなくて?本当気持よく寝てますわね」
「警察に通報した方がいいのかな…れ、令裡さん!?人のポケットを勝手に…!」
「通報も何も…この人、警察ですわよ?」
「え?」
「馬鹿野郎!何しやがる!一体何考えているんだてめぇは!」
「す、すいません…」
「まったく、登校中の女子高生に迷惑かけやがって、おめぇ学生の時成績悪かったろ!?だからあの年食って嫁もなく刑事なんかやってるやろ!」
「そういう先輩も刑事でしょうが…」
「うるさい!何口答えしてる!」

パン、と拳を叩いた机の上に食べ残されたかつ丼の飯粒とたくあんが空中に浮かべ上がってからまた下に落ちる。先輩の口から飛ばされた汚い飯粒が一つ俺の前髪に張り付いてしまったが、それを取る事もできず俺は謝り続けた。

「す、すいません…」
「だいたい、あの屋敷はなんで行ったんだ?家の者が何も言わなかったから無事にすんだものの、あそこは私有地だから不法侵入で通報されてもしょうがねんだよ、このクソ野郎!」

それはもう分かっているんだが、朝から署でかつ丼食べて飯粒飛ばしながら怒らないでほしい。私有地だったのは初めから知った上で行ったつもりだっ…。

「…私有地?ちょっ待ってください先輩」
「今度はなんだ、死にたいのか?てめぇ」
「私有地って、俺をここに運んでくれた女子高生って私有地から出たんじゃ…」
「それがど…どうした?」
「今何か気づいたんじゃないんすか?」
「うるさい!あの屋敷は禁断の領域だと昨日言ったばかりだろうが!」

再び拳を叩いたせいで、今度は味噌汁のチャハンがひっくり返され中身が机の上に零れ落ちた。先輩は怒りに歯を噛みながら俺を睨むばかりに、机の上の味噌汁を何とかしようとは微塵も思はなかった。その汚さに俺もなんかむかついて、気合に負けず机を叩いた。

「禁断がどうとかどうでもいいっスよ!夜な夜な市民に迷惑をかける、ここ笹鳴町で起きる怪事件の主犯がすぐあの丘の上にあるっていうのに、刑事として見過ごすにはいきません!」
「怪事件?」
「俺だって今まで何も考えずに雑用掛かりで新聞の記事をスクラップしたわけじゃないんですよ。ほら、見てください。笹鳴総合病院だっていっぱい裏がある!交通事故、デッドマンウォーキング事件、蛹田方正事件!などなど!」
「それがあの屋敷と関わりがあるっていう証拠なんてあるか!お前、ドラマとか見て刑事になろうとかそんなタイプか?ま、あんな奴が現実にあるわけないんだけど」

ここにありますけど、なにか?と叫びたい気持ちを抑えて俺は話を片付いた。

「とにかく、俺が任された事なんだから、最後まで俺が解決します」
「そんな事言ったってやらせるはずないだろう!ここがそんな暇なとこ見えるのか?あぁん?」
「俺だって暇でやるんじゃないんですよ!」
「じゃ、やるな!」
「やります!」
「やるなっていったろ!ドンドン!」
「く、口で効果音とかやめてくださいよ!」


*****


そうして、俺を見張るとかでタバコの買いもやらせなかった先輩が最近付き合っているバーの女に電話をしに行ったスキに、俺はこっそりと署を出て高校を探し回った。結局は何の成果もなかったけど。学校はなんでこんなに多く、学生はなんでまたこんなに多いのか…それに最近の子ってスカート短すぎだろう常識に考えて。俺の時はそうじゃなかったのに…まったく、世がどうなるのか…日本の未来が心配だ。

「てめぇ、今すぐ帰って来なかったら首だぞ、おい!」

俺の未来を脅かす、携帯の向こう側の先輩の声が耳に響くのも気にせず、俺は二日目の潜伏捜査を強行した。別に先輩に雇われた身もなし、国に雇われた身だ。俺はそう思って自信満々に携帯をoffにしてバッテリを分離した。今度は絶対寝られよう普段飲まないブラックコーヒーまで飲みながら。映画とかみたいに盗聴器でも使って中の声とかも聞けたら最高だろうけど、さすがにあれは不法だろう。あっちは単に怪しいと疑われているだけで、別に何か判事を犯したと断定することはできない。そう思うと今俺がやっている事の矛盾に気づいて冷や汗が出てしまったが、すぐ考えを直して拳を握った。

そうだ、あっちが白ならそれだけの事だ。俺はただ無辜な市民の話を聞いて事情を調べに来たまでだ。そう考えると、俺の指は自然に屋敷のチャイムを鳴らすようになった。

「はい、どちら様?」
「警察です。少しお時間をいただけますか?」
「はい?」 

玄関の扉が開けられ、俺は幅広い庭院に足を運んで、屋敷の正門の前に辿り付いた。洋式の館に似合わない祠があって妙に思っていると、中から扉が開いた。扉を開けてくれたのはこの前カフェで見た、印象的なサイズのおっぱいを所有した、メイド服の女の人だった。俺は驚きを隠せなかったが、相手は俺にまったく覚えがないようだった。まぁ、俺が一方的にこの人を見ただけで、あっちは背中向けてファフェ食ってたから無理もないか。一目で分かりやすく自分の職業をアピールする格好をした女の胸から必死に目をそらそうと、俺は頑張った。この時点で警察のバッジを見せなかったのに気づいて中途半端なタイミングに見せながら要件を伝える。

「あのう、ここの主人に会いたいんですが…」
「誰だ?」

上から声が聞こえて顔をあげると、二階の階段の上で金髪の少女が腕を組んで俺を見下げていた。黒いドレスに頭の上にはティアラ。なんじゃありゃ?コスプレが趣味なお金持ちのお嬢様か何かか?まったく、最近の子供達ときたら。

「お嬢様、この方がお嬢様に話があるって…」
「…上がらせるが良い」
「はい、刑事さん。どうぞこちらへ」
「あ、はい」

赤いカーペットが張られた階段を上り、案内された部屋に入ると、金髪の少女は小さい四角形のテーブルを前にして、部屋の上席に座っていた。こうして近くで見ると、目つきが鋭く、瞳が赤い。外国人…ハーフか?さっき聞いた時は日本語上手だったけど。

[姫様ったら、私が魔法の言葉をお教え挙げられたのに、それを使いにならないなんて]
[魔法の言葉?なんだ、そりゃ」
[『ニホンゴ、ワカリマセン』]
[いや、多分ワケわからねぇかったっろ]
[まぁ、いざとなっ私が記憶を消せばいいんですけど]
[って、なんで急に刑事が?]
[尾が長いと踏まれるものですは]
[あぁん?]

「で、ここを訪ねた要件について聞かせて欲しいですが」
「あぁ、そうだ。君…親御さんは居らっしゃらないのかな?」

いくらなんでもこんな未成年にしか見えない少女にすべてしゃべてしまうのはマズイだろう。ただでさえこの年の子は刑事とか言うと自分の周りに何か大変な事が起きたのではないかと怖がるもんだからな。ましてこんなか弱そうに見える少女に…って、いまオレがやっている事はどうだ?やべぇ、また冷や汗が…。

「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ」

必死に呼吸を整理しながら震える手でティーカップを取る。初めて嗅ぐ香りだった。少女は馴染んでるように口にティーカップを近づいた。

「実は…この屋敷について妙な噂を聞いてね…」
「…」
「あ、怖がる事はないさ。近所の人から話を聞いて、俺が事情の調べ役を任されたんだ。ま、あくまで形だからね。そうだな…まずは君の名前を教えてくれないかな。そして親御さんのお名前も…今は外出中?」

少女は俺ではなく俺の後ろにある何かを見て首を横に振った。一瞬見返したが部屋の扉は閉じられていて、そこにはなにもいなかった。

「両親はお二人とも海外に出ています」
「そ、そうなんだ」

もう言葉が思い出せず、思わず足を震わせた。膝の上にあったテーブルがドカンと上がってしまい、俺はびっくりして腰を下ろせティーカップを手で掴んで固定させた。すぐそこにあったナフキンでテーブルの上のガラスを取る。少女は俺のだらしなさにはちっとも気にせず、俺の言葉を待つようにこっちをジーと見つめた。

「その、そんじゃ今この家には君一人?さっきメイドっぽい人に案内されてもらったんだが」
「はい。使用人二人と暮らしています」
「二人?俺は一人しか見てないんだが…」
「今は充電…休憩中です」
「あ、そ、そう?」

再び沈黙が続く。俺はまた呼吸が乱れてきた。手で胸を掴んで耳と口で力いっぱい息を出しながら、俺はしばらく呼吸混乱に慌てた。

「明け方まで潜伏捜査でお体の具合が悪いそうですね」
「そう、そう。ドラマで見たよりきつくてね…ってあれ?」

少女は表情のない顔で俺を見つめていた。どこか違和感のする赤い瞳が俺を見ぬいてしまいそうにこっちを凝視している。なんだろう、この違和感。この少女はきっとこの世の者などではない。なぜかそんな気がした。

(別にお前が新入りで無能だからとかそういう問題じゃなくて、単にあっちが触れられない禁断の領域みたいなもんなのさ)

先輩の言葉が頭の中に浮かんだ。


「お、俺が潜伏捜査した事をどうして…」
「使用人が、帰りにあなたを見たと言うので」

バレた!?
潜伏捜査の基本は『ばれない』事なのに!しまった、私有地だからこの屋敷に住む者以外には誰も通らないからバレたのか!なんってこった!

「そ、それがね、あの、その、俺みたいな刑事は仕事をしてるとそれがなんというかそうというかどうもこうも…ていうのかな?なんちゃって」

大馬鹿な自分に言葉を失い、冷や汗だけが続いた。またも呼吸が乱れてしまう。気持ちまで悪くなった。高給ソファーに座っているのが辛くて生きていけない。何が禁断だ。何が刑事ドタマだ。ワケも分からなくなって俺はどうする事もできなくなった。

「その、つまり…」

顔を上げて必死に何か言おうと口を開けた瞬間、俺はそのまま顎を下まで落として、また言葉を失ってしまった。

「どうしました?」
「いや、う、後ろ…」
「後ろ?」

天井から、少女の背中から黒い髪の少女が逆さまに落ちてきた。いや、落ちて来たというより…そう、ささっと自然に滑べ降りてきた。まるで蜘蛛のように。

「な、この屋敷古いのか?」
「は…?」
「いや、蜘蛛が長生きして少女の格好になるくらい古いのかなって。こんな事言うのは、その…あれだけど」

少女は今まで一貫してきた無表情から初めて何かの表情を見せた。それは『不愉快』。俺はそれを何とかごまかそうとわざと大げさに笑いながら膝をぽんと打った。

「実は俺さ、幽霊とか見えるタイプなんだよな。なぁんだ、そういう事だったのか。まったく、事件かと思ったよ。ま、後は俺が何とかしてやろう。もう気にするな。なんか騒がせた悪かったね」

少女はなんか考え事をしたり、ため息をついたり複雑な顔をしてたけど、俺はようやく先輩は言っていた『禁断の領域』の意味が理解できた。

「まぁ、幽霊とかお化けって悪いやつばかりじゃないんだから。けっこうナイスボーディ…じゃなくて、おっぱいが大き…じゃなくて、いい幽霊もいっぱいあるんだ。多分君もそういうのが見えるタイプっぽいけど、心配しないで。君は今までどうり過ごせばいい。もし俺の話のせいで怖くなったら謝るよ。さ、これ俺への連絡先だ。なにか困った事とかあったらいつでも呼んでくれ。お兄ちゃんがすぐ行くからな!」

そこで親指を立て俺はウィンクした。少女はなんとも言えない顔をして俺を見ていたと思うと、やっと解ってくれたように頷いてくれた。やっぱり30過ぎでお兄ちゃんはありえないか?でもこういう時『おじいさんが…』といったほうが少女にしてみりゃよほど怖いだろう。それにやっぱ可愛い女の子の前だとお兄ちゃんでいたい。まだ未婚だそ。
少女と別れて屋敷を出ろうとするところに、少女の部屋であった蜘蛛のような少女のお化けを見た。

「おい、お前。この私に対しお化けとか言ったな?」
「なんだ、自分はただの幽霊じゃないんだと言いたいんだろう?知ってるさ。君みたいに人間の格好をするにはかなりの力を持ってるだろう。もしかして君はこのお屋敷の守り神とかなのか?」
「違う。私はその程度の神ではない。いいか、私は…」
「ま、幽霊もお化けも拝めば皆神なんだけどね」

他人から見ると独り言をしてるようにしか見えない会話をしながら、俺はさわやかな気持ちで屋敷をでた。そう、あの少年とバッタリと出くわす前までは。

「ただいま、姉さん。買い物行ってきたよ」
「おかえりなさい。ありがとう、ヒロ」

デットマンワーキング事件。
新聞のコマにちらっとだけ載せられていた事件。その後ネット上の都市伝説と化して広がった笹鳴総合病院の霊安室から消えた一体の死体。死因は交通事故。俺は事件のファイルで交通事故で死んだ人々の記録を閲覧した事がある。そこでだった一人、どこの墓場にも埋葬されていない人がいた。もしそれがデットマンワーキングだったら…。
あの少年と出くわした瞬間、得体のしれない寒気をおぼえた。持病なんかじゃなくて本当に冷や汗がでた。少年は俺を見て「なんでホームレスさんがここに?」とよく分からない事をつぶやいた。

「あの、君、もしかして…」

いや、待って。この少年が仮に幽霊かなにかだとしたら、今自然にこの屋敷のメイドと挨拶をしたという事は、メイドもそうなのか?少女は幽霊を使用人だと紹介したのか?それとも、少女も幽霊?俺は茫然となって少年を見ていた。

「あの、大丈夫ですか?」
「君、ひょっとして…」

次の瞬間、黒いものから視界を閉じられては襲われ、俺はその場で気を失っていまった。



*****



「ハッ」
「てめぇ、この俺が言った事スルか?スルなのか?」

気が付けば、俺は見知らぬ天井…じゃなくて何だかヤクザに理由も分からず毒説を言われていたが、しばらくした後そのヤクザが先輩だという事を思い出せ、ベットの上で冷や汗をかかれた。


「俺はなんでここに?」
「知るか。おめぇが倒れて病院に運ばれたと連絡が来たんだ。」
「連絡って誰から?」
「この前おめぇを署まで連れてきた女子高生いるだろう。黒くて長い髪の毛の、黒い制服着てさ」
「黒い…?」

記憶の中から、黒い何かが浮かびそこねた。なんか先輩が言ってる少女は俺の知っている少女とは違うような…起きたばかりだからなのかよく思う出せない。

「お前、このまま休め、ずっと」
「し、死ねと!?」
「そう、死ね…じゃなくて、刑事やめろ」
「なんで先輩に俺の人生設計まで決められなければならないんすか!お前俺のお母さんか!」
「誰がお母さんだ!てめえマジ死にたいのか!ドンドン」
「だから、口で効果音とかマジやめてくださいよ!」
「まったく、あんな奴は初めてだぞ。この私にお化けだと?不敬極まる奴め」
「お前が両親を弁解にするとな。外国人のフリするより斬新だったよ」
「それはそうと、催眠がちゃんと効いたか心配ですわ。私の経験上あのようなタイプは大概…」
「姫、あのホームレスさんは何しに来たの?もしかして物乞い?」
「お嬢様、お茶のお代わりしますか?」
「…」


*****



おとなしく病院にすっこんでいないと首を言葉どうりしてやるとの脅かしに折れず、先輩が署に戻った次の日に退院した俺は、果たせなかった事を果たす為にあの屋敷に向かった。この事件は、必ず俺が解決して見せる。

「警察署の者ですが」
「…」

俺の訪れに少なからず驚いたよう、金髪の少女は二階の階段から腕を組んで俺を見下げていた。黒いドレスに頭の上にはティアラ。なんじゃありゃ?コスプレが趣味なお金持ちのお嬢様か何かか?まったく、最近の子供達ときたら。

「お嬢様、この方がお嬢様に話があるって…」
「…上がらせるが良い」
「はい、刑事さん。どうぞこちらへ」
「あ、はい」

赤いカーペットが張られた階段を上り案内された部屋に入ると、金髪少女はの小さい四角形のテーブルを前にして部屋の上席に座っていた。こうして近くで見ると、目つきが鋭く、瞳が赤い。外国人…ハーフか?さっき聞いた時は日本語上手だったけど。

「で、ここを訪ねた要件について聞かせて欲しいですが」
「あぁ、そうだ。君…親御さんは居らっしゃらないのかな?」
「…」

いくらなんでもこんな未成年にしか見えない少女にすべてしゃべてしまうのはマズイだろう。ただでさえこの年の子は刑事とか言うと自分の周りに何か大変な事が起きたのではないかと怖がるもんだからな。ましてこんなか弱そうに見える少女に…って、いまオレがやっている事はどうだ?やべぇ、また冷や汗が…。

「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ」

必死に呼吸を整理しながら震える手でティーカップを取る。初めて嗅ぐ香りだった。少女は馴染んでるように口にティーカップを近づいた。

「実は…この屋敷について妙な噂を聞いてね…」
「…」
「あ、怖がる事はないさ。近所の人から話を聞いて、俺が事情の調べ役を任されたんだ。ま、あくまで形だからね。そうだな…まずは君の名前を教えてくれないかな。そして親御さんのお名前も…今は外出中?」

少女は俺ではなく俺の後ろにある何かを見て首を横に振った。一瞬見返したが部屋の扉は閉じられていて、そこにはなにもいなかった。

「両親はお二人とも海外に出ています」
「そ、そうなんだ」

もう言葉が思い出せず、思わず足を震わせた。膝の上にあったテーブルがドカンと上がってしまい、俺はびっくりして腰を下ろせティーカップを手で掴んで固定させた。すぐそこにあったナフキンでテーブルの上のガラスを取る。少女は俺のだらしなさにはちっとも来にせ、俺の言葉を待つようにこっちをジーと見つめた。

「その、そんじゃ今この家に君一人か?さっきメイドっぽい人に案内されてもらったんだが」

そこで少女は笑顔を見せた。あまり笑わない美人の笑顔ってすごく綺麗だと聞いたが、少女の笑顔はなんというか…綺麗だけど、なんだた裏があるように感じられた。

「こちらにメイドはありません。執事ならいますが」
「執事…?いや、でもさっきドアを開けてくれたのって女の人だったような…」
「ヒロ」
「はい、姫…じゃなくて、お嬢様」

ドアを開けて入ったのはウエイターみたいな格好をした少年だった。なぜかドアの外から笑い声をこらえるような音が聞こえた。

「お呼びですか、姫…じゃなくて、お嬢様」
「さっき門を開けたのはお前じゃなかったのか?」
「その、あの…はい。僕がやらせてもらいました」
「いや、でも俺はお前の事今日初めて見たんだが…」
「そ、そんなはずは…僕がこの部屋まで案内して挙げられましたよね?」
「いや、俺全然そんな覚えないん…まって」

その瞬間、俺は激しい既視感を感じた。何か、俺がこの屋敷を訪ねて来た本当の目的を思い出したような気がした。

「もしかして、君…」
「私の執事が何か?」
「いや、その。この子ひょっとして…」
「…」
「…なんでもない」

そう言おうとした瞬間、いきなり後頭部に強い衝撃を受け、俺はその場で倒された。





〈刑事王女 下〉につづく


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